伝わって欲しい人に伝わらない

相変わらず産婦人科の専門医も細々とキープしているので、点数稼ぎに講演会などに足を運ぶ。で、先日は母体救急の観点からの講演会ということで、救急の専門医を招いての講演会に出席。学会ではない小さな講演会というのはあまり出席者も多くないものだが、母体救急というテーマからか会場は満席であった。どの先生も熱心に講演を聞いていて、一人でも多くの命を救いたいという熱気に満ちていた。
母体が分娩時に危機に晒されるのは大体250分娩に1例、多いといえば多いし少ないといえば少ない。で、その時に点滴の針が入っているかどうかはその後の処置に大きく関わるのだが、救急の先生曰く、「自動車のシートベルトと同じような感じで、分娩前に点滴の針を入れるのを当たり前にしてほしい」とのこと。私の知る限りの病院では分娩時にルート確保は必須であったが、「自然」な分娩をウリにするところは多分入れないだろうなぁ。それ以外にも、どういう順番で救命処置を行うのが一番効率的か、等々かなり実践的な講演であった。
母体死亡率は、年々減ってきている。それでも1年間に数十人の方は分娩でお亡くなりになる。決してゼロには出来ないと分かっているので、私なんかは、もうほぼ限界なんだろうだから粛々と医療やってればいいんじゃない、と思うところだが、その講演会に来ていた先生たちからは、あと一人、もう一人でもいいから母体死亡を少なくしたい、という強い意志を感じた。こういう人たちが周産期の現場を支えているのに、何故か世間には伝わらないんだなぁ。職人的な人が多いから、広報とかが得意でない、という側面もあるんだろうけど。
今度こんな映画魚拓)が公開される。

河瀬監督は「吉村先生のような人は希有な存在だと思います。日本のお産の現場は医者が主体で陣痛促進剤などを使い、女性の力だけで分娩を行うのは全体の 2%程度と言われています。そんな中、2万例以上の子どもを取り上げた実績があるのは吉村先生以外にはいないのでは? そうした非常に少数派の人たちをドキュメンタリーで取り上げるのはセンセーショナルで驚くべきことだと思います。さらに吉村医院で出産した女性たちは、出産直後『ありがとう』とか『温かい』『幸せ』と世の中を肯定した言葉を吐くんですね。それは素晴らしいことだと思うし、こういう選択も女性にはあるんだということを伝えたかった」と説明した。

脱力だな。願わくば、一人でも多くの周産期の現場の先生が、映画の影響で心折られませんように。っていうか現場の先生は観るヒマもないかな。
<追記>うろうろドクター先生はもっと怒ってらっしゃいましたのでトラバしときます。