毎日マッチポンプ

やっぱり、自分のやってた所業の業の深さを思い知ったのか、あわてて火の粉を振り払う記事の作成に必死なえぶりでぃ新聞。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070421ddm010040163000c.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070421ddm010040165000c.html
この記事に対する論評その他は、いつもお世話になってます天漢日乗さんの2連発記事
「マスコミたらい回し」とは? (その43) 毎日新聞の「紙面批評」で「大淀病院産婦死亡事例」報道の言い訳 責任は取らないつもりだし、呼んでるメンバーは3/4が65歳以上の「年金受給世代」: 天漢日乗
「マスコミたらい回し」とは? (その44) 毎日新聞の「紙面批評」を読んだ医師の感想: 天漢日乗
が鋭くていいですので、御参照下さい。

一方、「たらい回し」は事実と異なり、東京本社の一部紙面でそういう見出しになったのは不適切だったと反省しています。

以前、「えぶりでぃ新聞自体は『たらい回し』とは言ってないのではないか」という議論もあったのだが、一部の紙面ではやっぱり言ってたということが確認されたのがやや収穫。
新聞社ではなく、外部の人の発言だが、

驚いたのは支局の若い記者が個人名を挙げられ、非難されていることだ。

おお、絵美タンが祭り上げられていることを、一応知ってるんだな。でも、多分、この外部の人は、そういう情報を新聞社側に仕込まれたんだろうな。普通、そんなこと知らんもん。m3とか2ちゃんにドップリハマってるか、医療ブログを事細かにチェックしてるなら別だけど。っていうより、祭り上げられることの恐ろしさを、祭り上げる側は知らないから、こういう発言にしかならないんだろうけど。「個人名を挙げ」て「非難する」って、それが正当か否かに関わらず、マスコミがいつもしてることですが何か?
分かってない人が書く記事に真面目に論評しても時間のムダなので、まあ読んでみて下さい。燃料程度にはお楽しみ頂けると思いますよ。
以下は記事。長いよ。

開かれた新聞:座談会 医療現場に構造欠陥 さらに分析し提言を(その1)

 ◇「開かれた新聞」委員会・座談会

 医師不足のため病院の診療に支障をきたす「医療崩壊」が各地で進んでいます。奈良県では昨年8月、分娩(ぶんべん)中に容体が急変した妊婦の緊急搬送先をなかなか確保できず、妊婦は8日後に死亡しました。毎日新聞は奈良の事例を通じて医療体制の不備を問うキャンペーンを展開し、さらに今年1月から企画「医療クライシス」を連載中です。地域間格差にも焦点を当てています。賛否の意見が多数寄せられており、「開かれた新聞」委員会のメンバーに意見を聞きました。作家の高村薫さんも議論に加わりました。【司会は朝比奈豊主筆、写真は大西達也】=座談会は13日に毎日新聞大阪本社で開き、紙面は主に東京・大阪本社発行の最終版を基にしました。

 ◆医療

 ◇記事の見せ方に工夫を−−玉木明委員

 ◇政治の流れ無視できず−−吉永春子委員

 司会 昨年8月、奈良県大淀病院で分娩中の妊婦が意識不明になり、緊急搬送先の病院で亡くなりました。10月以降、搬送先の確保に手間取った背景などを含めて報じています。昨年2月には帝王切開手術中に妊婦を死なせたとして福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕される事件もありました。こうした問題の構造的な要因を調べ、報告する狙いで、今年1月から東京と大阪の記者たちが企画「医療クライシス」を連載中です。一連の報道には多くの反響があり、患者側だけでなく、医療関係者からも賛否の意見が寄せられています。

 玉木明委員 奈良の記事は大変意味のあるスクープだ。たまたま昨年末から正月にかけて、同居の義母が1カ月入院したが、人手不足ですさんだ病院の現状を実感した。義母は認知症で歩き回り、夜中に病院から「介護に来てくれ」と言われる。私たちが行けないと義母を拘束してしまう。どんどん気力をなくしていくのを見かねて家に連れ帰った。多くの人が深刻な状況を経験しているのではないか。このまま医療を放っておいたら大変だという印象を持ったので、「医療クライシス」を含めて良い記事だと感じた。こういう医療の現状を広く世に知らしめていくのが新聞の重大な任務だと思う。

 吉永春子委員 奈良のスクープは見事だった。いろいろな恐れを感じながら取材を進めた担当記者は大変だったと思う。他の週刊誌のルポなどと比べると、毎日の記事は非常に抑制が利いており、影響を考えながら書いたという気がする。ただ「放置」や「たらい回し」といった表現は、誤解や反論を受けやすい。本当に「放置」していたのか繰り返し確かめたほうがいいし、「たらい回し」の見出しは慎重さが欠けていた。

 砂間裕之・大阪本社社会部兼科学環境部デスク 国立循環器病センターに運び込まれるまでの6時間について、“放置”という表現を使いました。その間、何も処置されなかったという遺族の強い思いがあり、事実関係としても19病院に搬送を断られ、遺族から見れば、結果的に放置されたというのは間違いでないと思います。一方、「たらい回し」は事実と異なり、東京本社の一部紙面でそういう見出しになったのは不適切だったと反省しています。

 柳田邦男委員 過去の医療報道でいくつか間違いはあったと思う。例えば「院内感染」と「患者の死亡」が結びつくと、記者は「医療事故だ」と決めつけがちだが、医学的な意味を探るかどうかが、単なるセンセーショナリズムか問題提起の記事になるかの分かれ目だ。奈良の問題では、2カ月間かなり慎重に取材し、科学環境部の記者も一体となって調査報道として第一報を出した手順は正解だった。今までの報道の姿勢で言えば妥当だったと思うが、もう一つ違う座標軸や視点を持ち込んではどうか。時代の変わり目には、記事の重点や意味付けも変わらないといけない。

 司会 高村薫さんには、「開かれた新聞」委員の立場ではなく、作家として、新聞読者としての視点からご意見をお願いします。

 高村薫氏 医療のことは全くの素人で、一読者として大淀病院のニュースに接すると何が原因で、誰が悪いのか、まとまりのあるストーリーが示されているとは受け取れなかった。素人には医師側の主張が妥当なのか判断できない。逆に被害者側の主張が正しいのか間違っているのかも分からない。利害関係のない第三者として医療事故の記事を読むと、いつもどう判断していいのか悩む。結局、誰が悪いのか、誰が責任を取るのかという形では見えてこない。

 司会 柳田委員の言うこれまでと違う視点の必要性とは、具体的にはどういうことでしょうか。

 柳田委員 大野病院の産科医逮捕に時代の変わり目が鮮明に表れている。一般に医療への期待は絶大で、万が一、出産時に新生児を死なせたら、親は殺されたという意識さえ持つ。お産は時にはリスクを伴うと認識されていた時代とは違う。そこに警察の強硬姿勢が加わり、その影響で分娩を扱う産婦人科医が激減した。警察側には遺族の心情を背景に刑事罰で医療界を糾(ただ)そうとする姿勢がある。それなりの理由があるにせよ、医師を凶悪犯的に扱うことで、産科医が激減し、医療崩壊を加速させるという由々しい事態が生じている。第三者機関が医療ミスの有無にかかわらず、被害者や遺族に補償の手立てを講じながら、原因を科学的に究明する制度を作らない限り、この二律背反は解決できない。報道はそこまで考えるべき時代だと思う。その点で「医療クライシス」シリーズはいい企画なので、提言の議論をさらに深めてほしいし、医療事故発生時の記事でも、その都度その視点を入れてほしい。

 高村氏 高度な医療技術が発達し、かつては、ここまででいいだろうと思われていた以上の治療ができるようになった。ただし先端医療にはお金がかかる。日本の早期新生児の死亡率は世界一低くなった。大いに喜ばしいことかもしれないが、諸条件の中で、そこまで追求すれば際限がなくなる。産科の技術に限らず、患者と医師の双方が際限のない満点を求める結果、医師が足りない、お金が足りない、病院が足りないと言われている気がする。そのため私は一読者として、いつも自分自身で頭を冷やしながら医療関係の記事を読んでいる。

 吉永委員 医師不足は政治の問題として考えたほうがいい。1982年に中曽根内閣の第2次臨時行政調査会が行政改革の一環として、医師数の伸びの抑制を打ち出した。実際、当時の厚生省は86年から医師の新規養成数を全体の10%程度削減する方針で医療行政を進めてきた。昨年には7・9%まで抑え込んで声高らかに宣言した。この流れは決して無視できない。もう一つは取材先の病院長からよく聞く話で、現場の実情にうとい厚生労働省が病院運営に細かく口出しする点だ。その辺りの取材も求められる。

 柳田委員 医師不足には数多くの要素がある。最も大きいのは医療費抑制だ。国はなんとしても医療費をこれ以上増やさないという方針で、徹底的に抑制している。象徴的なのは介護療養型病床をなくし、リハビリテーションにも上限を導入したことだ。高齢化率の高い地方の医療機関は本当に締め上げられる。もう一つは吉永さんが指摘した医学生定数の抑制で、何の根拠もない。医療費をこれ以上増やさない有効な手段として医者が増えては困るというだけだった。OECD経済協力開発機構)の調査では、人口10万人当たりの日本の医師数は先進7カ国の中で最低水準にとどまる。そこに医療事故の報道が追い打ちをかけた。

 玉木委員 毎日新聞は個人の医師を批判するだけで終わらせないという観点で一連の報道をしてきたと説明があったが、報道の在り方として大淀病院問題を伝えた初報の社会面(大阪本社)の記事が気になった。「遺族『助かったはず』」という見出しで、亡くなった母親の顔写真と、無事だった赤ちゃんを抱く父親の写真を掲載した。これは医師を告発していれば済んだ時代の形式で、既視感がある。新聞を開いた医師の中には、短絡的に医師たたき、医療たたきの記事がまた出たと受け止める人がいたと思う。新しい時代には新しい時代の器を考えてほしい。整理の仕方、見出しの付け方の問題もあるが、そろそろこういうパターンから抜け出し、新しい作り方ができないか。

 砂間デスク ご指摘は真剣に受け止めます。ただ、決して古いステレオタイプの記事だとは思いません。今日の議論のように医師、医療界をどうするかを考えながら、医療事故の一方の当事者である患者、遺族の権利を守ることも新聞の使命です。医療側の意見とともに患者の意見も掲載しないと、全体像は分からないと考えます。

 玉木委員 それは分かるが、記事の見せ方として新しいものを古い器に盛って出されたら、昔の料理と同じに見える。そういう感じがするということを強調したい。

 柳田委員 医療事故にとどまらず、JR西日本福知山線脱線事故(05年)でも、日本航空ジャンボ機の墜落事故(85年)でも、被害者の声は大事だから、記事の本文や見出しで被害者の言葉をカギ括弧に入れて出すのはニュースとしてあり得る。ただ玉木さんの言うように見せ方を衣替えできないかとは思う。

 司会 記事が情緒的すぎるという印象ですか。

 吉永委員 他紙も含め全般的に気持ち悪くなるほど情緒的な記事が多いのは事実だ。現実はもっとリアルだと思う。出産の現場は想像以上に緊迫している。ベテラン医師に聞いたが、出産の時はいつ何が起きるか分からず、緊迫した状況の中で瞬時の判断が求められる厳しいものだと言われた。こうした産科医の重責も書くべきだ。

 柳田委員 被害者の声を取り上げるなという気はさらさらない。しっかり伝え、そこから出発するのが事故論の原点だが、メディアの中では、被害者の視点を事故の真相究明の方法や制度にどう生かすか、その記事の作り方が検討されてこなかった。

 玉木委員 この遺族は記者の真意を理解し、協力してくれたのだから、相応の見識のある人だと思う。その言い分の掲載に反対だと言うつもりはない。しかし、社会面の記事だけを見ると、情緒的というか、引っかかりを感じる。

 柳田委員 遺族報道の在り方を含めて一つだけ補足しておきたい。何か事故が起きると現場の従事者の刑事責任の追及が優先されるのは、日本の一罰百戒主義文化の欠陥だが、それでは絶対に本質に迫れない。背景にある構造を分析すると、真因は制度やシステムの欠陥による組織事故であることが分かる。医療事故も、医師の一つの行為をあまりに強調しすぎると、本質が見えなくなる。今回の報道はかなり掘り下げて、企画も継続しているから多面的だと言えるが、基本的に犯人捜査的な物の見方から脱却しないと、本質に迫る記事にならない。私が医療事故にかかわる第三者調査機関の設置を主張するのも、捜査ではなく、構造分析を通じて欠陥を修復するためだ。突き詰めれば、刑事訴訟法がすべてに優先する社会システムの変更につながる。そのことも頭に入れておくと、新しい視点の記事を書けるのではないか。(25面につづく)

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 ◇委員会メンバー
吉永春子委員(テレビプロデューサー)
柳田邦男委員(作家)
玉木明委員(フリージャーナリスト)
 ◇オブザーバー
高村薫氏(作家)
 ◇毎日新聞側の主な出席者
 朝比奈豊主筆▽藤原健大阪本社編集局長▽河野俊史東京本社編集局次長▽山内雅史大阪本社社会部デスク▽砂間裕之同社会部兼科学環境部デスク▽薄木秀夫「開かれた新聞」委員会事務局長
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 ◇三つの役割−−開かれた新聞委員会
 毎日新聞の第三者機関「開かれた新聞」委員会は(1)人権侵害の苦情への対応をチェック=記事によって当事者から人権侵害の苦情や意見が社に寄せられた際、社の対応に対する見解を示し、読者に公表する(2)紙面への意見=報道に問題があると考えた場合、意見を表明する(3)メディアのあり方への提言=より良い報道を目指すための課題について提言する−−という三つの役割を担っています。
 記事による人権侵害の苦情や意見は各部門のほか、委員会事務局(ファクス03・3212・0825)でも受け付けます。毎日新聞 2007年4月21日 東京朝刊

開かれた新聞:座談会 医療現場に構造欠陥 さらに分析し提言を(その2止)

 ◇「開かれた新聞」委員会・座談会

 (24面からつづく)

 ◇責任の所在が見えない−−高村薫

 ◇補償と究明制度見据え−−柳田邦男委員

 司会 医療関係者からの批判は具体的にどんな内容だったのか。

 河野俊史・東京本社編集局次長 取材班に届いた反響のうち、毎日新聞の医療報道を批判するものは2割程度でした。医師の個人責任を問うことへの反発など、医療界の人からのものが多かったです。

 砂間デスク 大淀病院に関する医師からの意見はメールで100通前後です。医療体制の不備を指摘した記事への共感とともに、記者個人に対するものも含めて組織的と見られる批判がかなり寄せられました。主な内容は医師を個人攻撃するような表現で不適切ではないか、「医療クライシス」と報道姿勢が違う、医療の専門知識がないのに書くなというものなどでした。医療従事者専用サイトを通じての怒りが多いのも特徴でした。

 吉永委員 私にも批判された経験があるが、たいていの医師は「専門家でないくせに」「ろくに知りもしない記者が」という意識を持っている。脳外科と精神医療の取材が多かったが、臨床現場へ入る前に3カ月勉強させられたこともある。「専門家でない」という反応は当然あるという前提で取材を進めるべきだと思う。

 柳田委員 専門性のない記者が先走るなという批判はどんな分野でも起こり得るが、専門家が記者になって、いい記事が書けるかどうかは別問題だ。福島と奈良のケースでは、医師側の反応が全く違う。医師が逮捕された福島の医療界では、マスコミ批判より警察批判が強かった。一方、奈良では警察が立件を見送り、マスコミの中でも特に毎日新聞が攻撃された。その時々の状況や雰囲気で不満をぶつける対象が変わるのだから、今回の批判は、背景にあるもの、医師たちがどういう理由で揺れ動いているのかを考える材料として見るべきだろう。

 高村氏 医療関係者からの反響は総読者数を考えると少ない。驚いたのは支局の若い記者が個人名を挙げられ、非難されていることだ。意見を無視しろとは言わないが、逆にものすごく重大に受け取る必要はないと思う。賛成にしろ反対にしろ、インターネットを通じて自分の意見を簡単に、しかも過激な形で表明できる社会になった。ただ大多数の読者は、記事の一部は分かるけど、残りは分からないだとか、ここまでは賛成で、ここからは違うとか、もっと複雑な判断をしていると思う。特定の先鋭的な批判は、こういう意見もあるのだろうという程度の受け止め方でいいのではないか。新聞記者であれ、私のような物書きであれ、自分の立場で表現するのだから、すべての人の意見に合い、満足させるものは書けない。ある程度の意見の違いがあることを前提に、それぞれの記者たちが取材に回ればいい。今回の取材班も基本的なスタンスとして、十分なことをしていると思う。

 司会 今後の「医療クライシス」では、取材班が具体的な提言もしていく方針です。社会はどこまでを医療に求めるのか、医療ミスのとらえ方の問題、患者と医療側の間に立つ第三者機関の必要性など、記者たちはこれまでも問題意識を持って取材してきましたが、皆さんのご指摘を生かし、さらに充実した企画にしていきたいと思います。

 ◆格差

 ◇地域事情掘り下げ発信

 司会 昨年から企画「縦並び社会」で格差問題を取り上げ、今年2月には、小泉政権下での地域間格差の拡大を数字で示しました。統一地方選に合わせて各地で格差を問う企画も掲載しています。現職知事の強さが目立った前半の統一選では、滋賀県議会で地域政党が躍進した点を詳しく報道しました。格差や地方の問題の伝え方についてご意見をお聞かせください。

 柳田委員 北海道夕張市に関する記事が典型だが、地方自治体の行財政危機という側面から扱う例が多い。より重要な地域の実態のルポや分析が少ない。阪神大震災以降、ボランティア組織が続々と生まれ、お金に頼らない「もう一つの生き方」を考えるようになった。「財源がないからできない」ではなく、ボランティアと自治体の協働作業を町おこしにつなげるアイデアは無数にあるはずだ。そこで全国の支局を総動員して絶えず情報を集めて紙面化すれば、生きがい探しや町おこしの「希望新聞」ができる。

 吉永委員 東京の紙面で掲載された「地域間格差を問う」も、特に1〜3回目はなかなかの力作だった。いくつかのルポを読んだが、自治体が熱心に取り組む企業誘致さえ決して甘くないことがよく示されている。補助金を出して誘致に成功しても税収があまり伸びず、期待したほど地元の雇用が増えないことが分かる。滋賀県議選の記事を読み、無党派の議員も議会運営などこれからが大変なので、きちんと追跡してもらいたいと思った。

 玉木委員 夕張市の破綻(はたん)から見えてくるのは地方政治・行政の発想の貧しさだ。炭鉱から観光へというスローガンを掲げ、国の補助金を得て箱物を作る。そこに利権が見え隠れして、議会も市長や行政の監視機能を果たさない。破綻のしわ寄せは住民に降りかかる構図だが、選挙で意思表示しなかった市民の責任が問われる側面がどうしても出てくる。これに対し、滋賀県議選の結果は、地方がどう変わっていくのかという一つの方向を示していて、一歩先を行く事例になると思う。統一選に限らず地方選挙の持つ意義を伝える視点が重要だ。

 高村氏 地方(大阪)に住む人間として地方から発信される地方の記事を読み、東京との格差を実感している。地方では高齢化と人口減少が進み、産業が立ち行かなくなる。公共事業で整備した道路やホールなどの維持管理もできなくなる。支局の記者たちには、何よりも急がなければならないという危機感を持ってほしい。そして地方の記事には人々の情の部分があってもいいと思う。それぞれの地方にはそれぞれの事情がある。共通しているのは、従来のように国からお金を引き出せず、分権を進めて何とか自立しなければならないことだ。私から見れば滋賀県も後がない県だ。中央の人が考えるように、単に風が吹いて無党派議員が増えたのではなく、新幹線の駅なんか造っている場合じゃないという直感的な危機感がある。

 藤原健・大阪本社編集局長 切羽詰まった事情があるという目配り、気配りをしながら紙面を作り、それを東京本社の紙面でもどんどん載せるように連携しなければと改めて思います。

 河野局次長 もはや地方の現状を紹介している段階ではなく、具体的に提言していく次元に入ったと思います。東京からも地方の話を吸い上げて踏み込んだ記事を多く書いていきたいと考えます。

 柳田委員 これだけ地域間格差が言われているのに、1面や社会面に突っ込んだ内容の地方の記事が少なすぎる。例えば新潟県水俣病被害者対策で、国の基準以上の発想をしているのはほとんど伝わっていない。地方紙には時々、かなりいい記事が載る。新聞記者は他の新聞に先に書かれたことをあまり大きく扱いたがらないが、読者のためには恥を捨てて追い掛け、記事の取り上げ方、書き方により全国に通じる記事になるという意識を持つべきだ。

 玉木委員 やはり地域の住民と真正面から向き合って記事を書くのが基本だと思う。中には地方の材料をどうやって書いたら社会面に大きく載るかを考えすぎる記者もいる。そういう目が中央にばかり向いた書き方をしていると、記事がつまらなくなる。地方からの発信は大切だが、支局の若い記者には小手先のテクニックに頼ってほしくない。

 高村氏 機会さえあれば東京に出たいと思う若者が地元でもう一つの価値観を持って生きていけるようになればいい。先ほど分権の必要性を強調したのは、地方ならではの生き方や価値観を作っていくためだ。

 柳田委員 金狂いの世の中とはいえ、地方を歩いていると、東京の会社勤めで手にする高い給料より、故郷の山を守りたい、漁師になりたいと新しい価値観を選んだ人たちに出会う。礼賛ではないが、土臭い話から若者に多様な生き方を伝えていく方法はある。

 吉永委員 本当に新しい価値観が生まれたらすごいと思う。私の故郷もそうだが、大変だ、困ったと言いながら、古い体質からなかなか抜け切れない。町に伝わる年輪の重さもあるし、改革、改革という言葉の裏にある危うさを見抜く勘も備わっている。町それぞれが抱えている問題が違うのだから一律には言えない。

 司会 地方からの情報発信について、大事な提言をいくつもいただきました。今後の紙面作りに生かしたいと考えます。一方で、毎日新聞は02年以降、全国各地に編集幹部や記者が出向く「移動支局」の取り組みを41カ所で続け、今年度からさらに拡大します。地元の人たちと交流しながら全国紙として特色ある地域発信ニュースを目指します。

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 ■基調報告

 ◇医療体制の不備追及−−砂間裕之・大阪本社社会部兼科学環境部デスク

 昨年8月8日、奈良県大淀病院に入院中の妊婦の容体が急変し、19病院に搬送を断られた。約60キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに運び込まれたのは6時間後。妊婦は帝王切開と脳の同時手術で無事出産したが、8日後に亡くなった。奈良支局の若い記者が関係者取材を進め、科学環境部と連携して断片情報を積み重ねた。約1カ月半後に妊婦の身元が分かった段階で書けたが、医療体制の不備を追及して改善につなげるため、遺族や現状を憂慮する医師らの取材を続けた。10月17日朝刊の初報後もキャンペーンを展開。当初から医師個人の責任に焦点を当てる単発報道で終わる考えはなかった。

 ◇第3部で具体策提言−−河野俊史・東京本社編集局次長

 医療報道は最も重要な取材テーマの一つだ。福島の医師逮捕のケースでは、背景や強制捜査の問題点をいち早く報道したつもりだ。最近のひやりとさせられる事案の背景には医師不足など医療現場の構造的な問題があり、企画「医療クライシス」では実情を深く掘り下げている。厚生労働省は医師の偏在を強調するが、私たちは医師自体が足りないと考えた。第3部では具体的な対策を提言したい。

 ◇現状を丁寧に取材−−山内雅史・大阪本社社会部デスク

 地方の現状を丁寧に取材し、全国に発信できるテーマを探るのが大阪のスタンスだ。企画「潮流を追う」の狙いもそこにあり、最初は滋賀県嘉田由紀子知事誕生の背景に迫った。嘉田知事は06年7月の知事選で、新幹線駅舎建設や琵琶湖のダム開発の凍結を掲げて自民、民主、公明の3党相乗りの現職を破った。統一地方選前半戦で、全国的に無党派層が動かなかったと言われたが、滋賀県議選では知事派が過半数を制した。このような変化を伝えるには支局の役割が大きい。関西の地盤沈下も含め地方がこのまま衰退すると、日本の将来は危ないという認識を持っている。地方のマイナス面だけでなく、応援する記事も書き続けたい。

毎日新聞 2007年4月21日 東京朝刊