近未来小説2

僻地スレより。

116 卵の名無しさん sage 2007/06/19(火) 16:59:48 yYw5ykRa0
○日新聞 2015年 6月19日朝刊 特集 医療再生〜救急医療は蘇るか?

「それは本当ですか! ……わかりました。ご冥福をお祈りします。今までありがとうございました」
 兵庫県東部、N市、一本の電話を受けて、医師会長の播磨七士医師は天を仰いだ。
 2015年2月、梅が咲き始め、春の訪れが感じられる小春日和の日にかかってきた電話は、小児科開業医Y医師の訃報だった。、
 そして輪番制で行っている地域の夜間休日診療の訃報を意味する電話でもあった。
 大阪に近く高級住宅も多いこの市は、開業医もまた多いはずだった。
 だが、小児一次救急を開業医の輪番でまわす制度は、わずか7年で崩壊した。
 播磨医師は崩壊の原因をこう語る。
「もともと開業医は休日夜間診療を行っていなくても、予防接種や検診、学校医といった地域奉仕をしていたのです。
 しかし、厚生労働省中医協による開業医への無理な休日夜間診療の押しつけが、引き金となってしまったのです。
 最近の開業する医師は、自由と逃避のために開業を行っています。ですから医師会に所属せず、輪番制に応じません。
 応じたのは当時で既に50歳以上の医師ばかりでした。
 そこから7年、60になれば、いくら熱意のある医師だって無理は利きません。様々な病気にかかり働けなくなる医師も多数でました。
 その結果、輪番辞退が続出し、輪番態勢も崩壊したのです」
 さらに休日や夜間の診療で働くことの出来る看護師や医療事務の数は数少なく、勢い雑務が輪番担当医にかかる。
 しかも休日に診療した患者が自院の患者になる率も低く、一昨年、診療看護師導入の影で休日夜間の診療報酬がさらに下げられた。
 Y医師は、亡くなる1日前に休日夜間診療で150人の患者を診療し、当日も午前中に60人にも及ぶ患者を診療した。
 そして午後4時、検診に訪れないことを連絡された夫人が、診療所を訪れ、ソファーの上で亡くなっているY医師を発見した。
「夫は、白衣も脱がず、聴診器もポケットに入れたまま、眠るように息を引き取っていました」
 夫人はY医師を最初に見つけたときの様子をそう語る。


118 卵の名無しさん sage 2007/06/19(火) 17:09:00 yYw5ykRa0
 仏壇に添えられた写真の中で、優しそうなY医師が微笑み、その周りには子供達の手紙が飾られていた。
 Y医師の長男F医師は、医師になったものの放射線科に進んだ。それはY医師自身のアドバイスが大きい。
「父は、根拠のない診療報酬改定に振り回される保険医では先は見えないと言ってました。
 ですので、私はアメリカ留学のつてで、アメリカの病院からの読影委託で収入を得ています
 父には悪いのですが、父は早く臨床をほどほどにするべきでした。日本の保険診療下では臨床医は負け組なんです」
 そう言うS医師は、週2日休日が保証され、夜間休日に働くことも無く、趣味のオーケストラ活動に打ち込む日々を送っている。
 S医師に、医院を継ぐ意志を尋ねたが、明確に否定された。医院はまもなく取り壊されマンションが建てられる予定だ。
 開業医の多い筈のN市は、しかし今では閉院の張り紙を貼られた診療所の方が多い。
 3歳の子供を持つOさんは実状をこう語る。
「頼れるベテラン先生のところが、軒並み閉院になってしまいました。
 それどころか、ビルで開業していた若い先生も、オーストラリアに行くって閉院になってしまって。
 去年までは10分も歩けば診療所に行けたのに、今では歩いて30分かかるところで、5時間待たないと診察してもらえないんです」
 小児科は乳幼児助成制度があり、利益が固い診療科のはずだった。
 だが7年前、厚生労働省による開業医の休日夜間診療への誘導を目的とした診療報酬改定が行われた。


119 卵の名無しさん sage 2007/06/19(火) 17:12:49 yYw5ykRa0
 前述の播磨医師はこう嘆く。
「通常時間帯の診療報酬も下げて、休日夜間診療報酬を減らせば、人を雇う余裕もなくなります。
 今では夜間休日に開けるよりも、閉院して、駐車場やマンションにしてしまうほうがよほどましなのです。
 開業して日が浅い医師達すら、理不尽な診療報酬に従うよりも海外で働く方がマシだと感じ始めたのです」
 開業医の一年あたりの報酬は2400万円と騒がれたときもあったのになぜかと訊いてみた。答は明快だった。
「それは粗利益ですし、一部の稼いでいる医療機関により数字が底上げされているのです。
 そこから税金や人件費や機械のリース料、院内に置く救急薬品の購入費などを差し引いたのが実収入です。
 多くの診療所では実年収1000万円切るでしょう。休日夜間診療をしなければ、もう少し多くなるのですが
 まあ、医師が医業をするより不動産業をするほうが確実な時代なんですね」
 そう言うと播磨医師は寂しく笑った。

 そして開業医による夜間休日診療システムが崩壊した地区の人々は、救急病院に行かざるを得なくなる。
 だが、その病院でも鳴り物入りで導入された診療看護師制度が危機に瀕している。
「同期ですか? 30人はいましたけど、今残っているのは5人くらいでしょうか? 私も辞めようかと思っていますけどね」
 診療看護師に第一期合格したMさんは、そういって自嘲するような笑みを浮かべた。
「確かに少しだけ給料は良いです。だけど、医師じゃないってことで、患者さんの態度が全然違うんですよ。
 怒鳴られることなんて当たり前で、殴られた人も知っています」
 Mさんの話によると、診療看護師が出てくると、露骨に不審な顔を見せるのは良い方だという。
 何を言っても医者を出せとわめく患者、誤診したら訴えるとすごむ母親、希望が通らないと暴れる患者はざらだという。
「救急での初診というのはとても難しいのですが、それを患者様は理解してくれません。
 後で医者にかかったらこの薬では駄目だと言われたとか、緊急入院になったとかで、クレームは当たり前です。
 幸いにして私はありませんが、医療ミスだと言われて訴えられている診療看護師は、かなりいます。
 訴訟になったら病院は守ってくれませんし、皆、嫌気がさしているのです」


120 卵の名無しさん sage 2007/06/19(火) 17:17:02 yYw5ykRa0
 けれど、その状態になっても救急現場に医師が戻るにはハードルが高い。
 病院長のM医師はこう述壊する。
「今の若い医師は、小さな病院で救急をやろうとはしません。休めず、訴えられる確率が高く、バックアップも乏しく、給料も安いからです。
 誰も孤立無援で、指導医も無く働きたくはないですから」
 それでもこの病院では安くないオンコール料を払って、医師によるバックアップを得て、救急をなんとか続けている。
「議会や市長に理解があったので、なんとか態勢を保つことができましたが、やはり診療看護師によるトリアージでクレームは多くなりました。
 とはいえ、医師に時間外を払って、休日夜間診療をしてもらうとなると、予算がありません。
 結局、救急診療を中止するのが一番の上策ということになってしまいます。もちろん地域のために出来るだけ救急を続けてはいきますが」

 2006年に話題となった立ち去り型サボタージュは、十年経って海外まで広がる普遍の現象となった。
 かつてイエス・キリストは汝の隣人を愛せよといった。
 医師には、報酬や待遇を追い求めるだけでなく、地域に踏みとどまり、夜間休日診療を通じて、地域住民という医師の隣人を愛する業務を行って欲しい。
 そして医療から格差を無くして、社会の格差を縮める礎となってほしいと願わざるを得ない。

 この特集、医療再生では、5回にわたって本紙記者達が格差を生み出す装置となった医療現場を徹底的に 取材していく予定です。
 次回は、医師の海外流出〜海外との格差に取り組みます。

                    文責:砂○○之

のぢぎく県の小児科開業医でY先生って・・・ちょっと不吉。「医師会長の播磨七士医師」774先生えらく出世されたようで。