泣くと死ぬ病気

例の宮崎大の事例。各地でコメント出てますが、いつもお世話になってます■2歳児に2回採血失敗で2400万円 「宮崎大側に2400万円の支払い命令」 | 勤務医 開業つれづれ日記のコメント欄より。

■Fallot?
当方循環器小児科医ですので、ひとこと。


最初にお亡くなりになった患者さんの御冥福をお祈りいたします。


これはファロー四徴症か、それに類する先天性心疾患だろうと思います。それなら激しく泣いたら死ぬこともありますから。ただその場合の死因は「呼吸困難」ではなく「無酸素発作」ですけど。泣き入りひきつけなどでもないようですから、多分また何も分かってない記者が記事を書いてるんでしょう。無酸素発作は肺動脈に血液がほとんど流れなくなる状態です。呼吸運動自体はしています。


未手術のファローは、それはそれは怖い疾患で、私も今でも採血するの怖いです。(BTシャント後なら別に怖くもなんともない)
私は採血の直前まで母親に抱っこしてもらってて、すぐ酸素を使える準備、鎮静の準備など(麻薬はさすがにすぐには準備できないけど)をして、周囲に人を2−3人呼んでから処置をします。1回失敗したら、数分から十数分は落ち着くまで母親に戻します。それくらい神経質に臆病にしています。


無酸素発作(肺動脈弁下部の筋性狭窄部位がさらに狭小化〜閉塞してしまう状態です)の状態になると、チアノーゼが増悪し、「苦しい」状態になるので更に泣いて、症状をさらに増悪させ、心筋の低酸素状態が遷延し、アシドーシスになり、肺動脈弁下部の筋収縮も改善しない、という悪循環に陥ります。一旦状態が落ち込んでしまうと、救命が困難になることも珍しくはありません。不幸な出来事でしたが、これが私の想像通りに本当にファロー四徴症であるならば、原疾患による合併症であるわけで、予想される予後の範囲内ではあるのです。いつでもどこでも何かのきっかけでこういうことが起こることはありえたわけで。そのきっかけが採血だった、というところがご家族には耐えられなかったわけでしょうけど。


ただ、近年の医療訴訟の嵐の中、研修医にファローの採血をさせるなんて、残念ながら、脇が甘いといわれても仕方ないですね。他の患児で練習させればよかったのに。カエルの解剖実習をヤドクガエルでするようなもんです。
うちの病院では、その場にいる人間のなかで一番処置の上手な人にファローの処置を任せています...って、いつもそれが私になるんですがorz。


長くなってスミマセン。他人事ではなかったもので。
京若 (2007-07-31 15:39:57)

専門外の人間にとっては実に勉強になるコメント。いくつかみたブログでは、採血失敗するのも仕方ない的なコメントも見ましたが、採血の練習なら確かに他の患児でもできるわけで。まあ、いつかはこういう修羅場を踏まねばならない時が来るにしても、このタイミングでは無かった可能性もある、ということがよく理解できました。
<追記>Yosyan先生のとこでも記事あり。医療従事者さえミスリードしそうな記事だった、という解釈に同意。