読んでいて涙が止まらない本

医師の方全員に当てはまる話では全然ないけど、多少なりとも思い当たるフシがある方もいるかと。

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実
 父親は少年が医師となることを強く望んでいた。医師となるためには良い大学に行かなければならない。
 そのためには勉強を強要するのもやむをえない――。
 そうしたひとりよがりの愛情が、いつしか少年を追い詰めていた。
 今回の事件は、「特殊な家庭の特異な出来事」と言えるのか。過熱する受験戦争の中、
 わが子を「所有物」だと思っているすべての親は、この父親の予備軍かもしれない。
 本書はいま改めて、「家族のあり方」を世に問う一冊でもある。 (Amazon.co.jpの紹介文より)

医師の子が医師になる確率は決して低くはない。どういう経緯で医師の子が医師になるのかは人それぞれだろうから、それがいいか悪いかということはここではコメントしないし、する意味もないだろう。ただ、ここ数年の社会情勢の中で思うのは、「医師ってそんなにイイ職業じゃないと思うけど・・・・」ということ。ライセンスとしてはそんなに悪く無いと思うけど。だから、子供に勉強を強制してまでなってもらう職業かなぁ、というのが正直な感想。
そういう思いとは別に、この少年が追い詰められていく過程がとても痛ましい。私自身は、小学校、中学校、もちろん高等学校も含めて、勉強するにあたって親から強制を受けたことも無いし、暴力を受けたことも無いので、それが当然かと思ってもいたが、まあこの事件の父親が特異な例だということはあるにしろ、多少なりとも親からのなんらかの強制というか直接じゃないにしろ言葉の暴力みたいなのは世間の家庭ではあるのかなと思う。そういう点では私は幸せだったし、親にも深く感謝したいところだ。
この少年が「広汎性発達障害」であったことが本書では謎解きのような形で取り上げられているが、専門では無いので批評的なコメントは控えておく。ただ、幼児期・学童期に何らかの精神的問題を抱えていても、適切なサポートにより成人すると何とか社会生活を送ることができるようになる人はいっぱいいるわけで、特に医師など、何らかの精神的・性格的問題を抱えている人は多分一般人口母集団より高率なんじゃないかと思う。この少年も、本書によれば「神童」だった時期もあるわけだから決して能力が無いわけではなくて、適切なサポートを受けさえすれば社会と何らかの折り合いをつけつつ生きていくことは十分に可能だったと思う。父と子で「閉じた」関係であったことが大きな問題だと思われ、昔のような大家族ではなく、閉じた家庭が増えている今、こういう事件は増えていくのかな、と寂しい予想をせざるを得ない。
私は、症例を見るような読み方でこの本を読んでしまって、涙が止まらなかったのだが、他の人はどういうふうに読むんだろうか。この事件から、何を学ぶべきなのか。
この少年の実母、本書によれば少年の父親の暴力に耐えかねての離婚のようであるが、別居時に少年を連れ出せずその後一度も会えていないことを悔い、一念発起して医学部に入学、現在は研修医とのこと。同じ業界にいればいつかはお互いを見つけ出せるだろう、と思ったとのくだりに号泣。