時の流れ

大学院生の頃、生活費を稼ぐためにバイトをしていた。といっても、家庭教師とかではなく、もう産婦人科医になった後だったので、産婦人科医としてバイトをしていた。がん検診とかで一見さんな仕事を好む人もいるが、私は安定して稼ぎたかったので、某開業医さんで毎週決まった曜日にキッチリと働いていた。バイト代は当時としてはまあまあだった。先輩が開いたクリニックで居心地もよかったし、妊婦さんに提供していたゴージャスな料理を当直医にも出してくれたので、それだけで十分だった。
さて、時は流れ、産婦人科は崩壊へとひた走っていた。周囲の公立病院もバイト代が上がってきて、いよいよそのクリニックを抜いてしまった。それでも、先輩との付き合いもあるし、ゴハンがおいしかったから、バイトを続けていた。
しばらくして、先輩は経営に回ることになって、現場の仕切りは私の知らない先生になった。その先生は悪い人じゃないんだろうけど、なんだか居心地が悪かった。医療スタッフからその先生への不満なんかも聞こえてくるようになった。妊婦さんのゴハンは相変わらずゴージャスだったけど、理由は分からないが当直医のゴハンはいつしか普通の幕の内弁当になった。周囲の公立病院がさらにバイト代を上げる中、クリニックは据え置きだった。ちょうど私自身も忙しくなったので、バイトを辞めた。
最近、そのクリニックのHPを見てみた。その知らない先生はいつの間にかいなくなっていた。また別の先生が現場をまかされているようだ。開業医ってのも大変だな。先輩も、人事が一番大変だよ、とこぼしていたのを思い出す。私は開業とは全く正反対の場所にいるけれど、どういうキャリアを積み重ねてどういうゴールを目指すのか、人生設計をしっかりと考えねばいけないなぁと、つくづく思う。少なくとも、他人の役に立つ人間、できれば、取り替えのきかない人材になりたいとは思うが。