またも「たらい回し」か。

折しも大淀病院事件の裁判がある日に流れたニュース。引用とかは各地でされてるので、リンクで御免。
2007-08-29
「マスコミたらい回し」とは?(その87) 毎日新聞奈良支局が県南部の産科を絶滅した奈良県で、搬送先に向かう途中の救急車が事故 妊娠三ヶ月の妊婦さんが流産→毎日新聞第一報見出しは「たらい回し」 自らの責任を棚に上げ「周産期医療の救急体制の不備」とあげつらう記事掲載: 天漢日乗
「マスコミたらい回し」とは?(その88)産科医は促成栽培できる野菜じゃありません 養成に最低10年かかる産科医は絶対数不足なのにNHKニュース9で「スピード感をもって望んで欲しい」「安心して子供が産めません」と血迷ったコメント: 天漢日乗
「マスコミたらい回し」とは?(その89)奈良高槻妊婦搬送問題 38歳女性は妊娠7ヶ月? 妊娠中期まで産科未受診の妊産婦の急変には救急は対応できない: 天漢日乗
いつもながら天漢日乗さんは充実している。記事本文はそちらでご覧下さい。
さて、妊娠週数ですが、3ヶ月と言ったり20週と言ったり24週と言ったりいろいろですね。どんどん増えていくのが恐ろしい。で、38歳の妊婦の救急搬送をかかりつけでない病院に問い合わせるとしたら、「妊娠3ヶ月の腹痛」よりも、「妊娠24週の腹痛&破水」の方が、まず高率に断られると思われる。というのも、破水がらみということは、子宮内感染が疑われるし、早産になる可能性が高いし、そしたらNICUで受けなきゃいけないし、感染がらみの児であれば予後も感染ナシよりは悪いだろう。妊婦のみならず、NICUの空きも同時に探さねばならないから、妊婦検診を受けていたかどうかに関わらず、あんまり受け入れ先自体も少なかったと思われる。特に、この県ならなおさらである。そう考えると、確かに大淀の件と状況は似てくるのだが、哀しいかな「24週」にポイントを置いて、この点を突いてきたマスコミは無かったように思う。相変わらずの感情論である。
医学的な事を言えば、一部報道では、この妊婦さんは過去にも「流産歴」があるとのこと。これが、妊娠12週までの早期の流産でなく、12週以上22週未満の死産扱いの流産なら、今回の妊娠では頸管無力症を強く疑って慎重に経過観察としたいところであるし、前回妊娠流産時にそのような注意を担当医がしているはずである。この妊婦さんがどのような理由で今回妊婦検診を受けてなかったのかわからない。妊娠3ヶ月なんだったら経産婦さんにありがちななかなか初診しない人たち、ということでもいいが、24週相当となれば何らかの意図的なものがあるのだろう。そこら辺が分からないと何とも言えないけれど、状況的には頸管無力症による進行流産(今回の場合は早産か?)かなと推測している。
専門家の意見をもう少ししっかり取り上げて冷静な評論を望みたいところだが、相変わらず、報道したい方向性にマッチした意見しか取り上げてないような印象。なかなか難しいですね。
<追記>奈良県立医大は断るつもりなかったとかいろいろな情報も出て来てますが、結局のところ、どういう問い合わせをしたかとか、そういうことも全て明らかにならないとあんまりよく分かりませんね。「妊娠3ヶ月の腹痛です」って言われたら、緊急性はあまりないことが多いから、もし自分が診察中だったら「ちょっと待ってよ」って言うよな。「妊娠20週の腹痛、破水です」って言われたら、「ああ、早ければ今晩中に出ちゃうかも知れないし、多少もったとしても流産は免れないな」ということで受けるかも知れないし。でも「妊娠24週の腹痛、破水です」って言われたら、「NICUと相談してから」と答えるよな。母体のベッドだけ空いててもしょうがないもん。分からない部分が多すぎて、結局全体像は分からずじまい、だな。少ない情報でもあれこれ分析してしまうのが、医師の性、という感じかと。