常位胎盤早期剥離の治療方針

常位胎盤早期剥離といえば帝王切開。国家試験的にも、そういうことになってると思う。
児がまだ生存しているときには、それが正しい。ただ、常位胎盤早期剥離のPage分類なんかを見ると、中等症でも児は死んでるっていう前提だから、生児を得るってのは早期発見されるという、運によるところもある。で、児が死んでる場合の治療方針なんだが、アメリカなんかでは、原則的に経膣分娩ということのようだ。確かに、DIC傾向になると分かってる妊婦に、帝王切開で傷をつけると血が止まらないだろうというのは予測できることだ。ただ、日本では、基本的には胎児死亡でも帝王切開が基本らしい。一刻でも早く、病気の原因である妊娠を終わらせようということを優先するからだ。ただ、母体死亡症例などを見ると、手術後のDICを制御できなくて死亡に至る事例は多い。
私は、常位胎盤早期剥離の治療方針として帝王切開と経膣分娩の両方の経験がある。とにかくラインを取りまくってガンガンに血液製剤を入れて、下からダラダラと出血がある中で、経膣分娩を強行するのはかなりの恐怖である。ただ、児が出た後の症状の改善は劇的で、普通の産後のように退院していく。しかし、帝王切開した場合は、病因を取り除いたと言う安心感はあるが、術後の経過は通常の帝王切開のようにいかないこともある。DICの管理に極めて注意を要するのだ。そういう意味では、手術のタイミングが極めて難しいといえる。
ただ、現代のような訴訟社会では、通常決められている以外の治療をした場合のバッシングがひどいので、帝王切開せざるを得ないのだろうな、と思う。ただ、結果が悪かった場合は容赦なく叩かれるので、裁判になった時に、「ガイドラインで定められた治療はしていた」と主張できる、というメリットしかないのではあるが。私も、今の時代に産科医をしていれば、経膣分娩という治療方針を取る可能性は低くなると思う。母体死亡を減らす、という医療本来の目的と逆行するかも知れないのが悲しいところである。