脚本家の仕事とは

昨日の記事の続き。前2回に比べたらまともな感じがしますね。
(3)脚本家の仕事とは : 大石静さん : 小町People : インタビュー : 大手小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

子宮を摘出するかどうか女医さんと相談している時も、その女医さんが、「とっちゃいなさいよ、歯を抜くようなもんだから」と言われて、これも別のドラマで使いました。

そんな女医、いるのか? まあ会話の前後の文脈が分からないから何とも言えないが、子宮全摘は歯を抜くようなもんじゃないと思うけど。そりゃ、産婦人科医にとっては子宮全摘は基本手技だから、出来なきゃいかんけど、患者さん御本人にとっては一大事だと思うんだがなぁ。悩むだけ悩んでもらわないと、納得できないですよね。

最後まで見ていただければ、産婦人科医の仕事は素晴らしい、と思っていただけると思いますし、産婦人科医をめざす人が増えるといいなとも思っています。

「最後まで」見てもらえたらね。初回、2回目で不快感炸裂なもんで、周囲にもドロップアウトしたひとがいます。っていうか、ホントの産婦人科医は忙しくて見てない。

(3)脚本家の仕事とは : 大石静さん
産科医のドラマを描く

 テレビドラマ「ギネ 産婦人科の女たち」(日本テレビ系、毎週水曜午後10時から)は、少子化の中、新しい命の誕生を支える産婦人科の医療の厳しい現状をリアルに伝える。脚本を書いた大石静さんに、ドラマへの思いを聞いた。(聞き手・稲沢裕子)

人は感動することで変わる

Qこのドラマがきっかけで、産科医療の危機的状況を変えなくては、という意識が高まるのでは。

A前回も言いましたが、ドラマはエンターテインメントですから、啓蒙的な意識が作り手に強くあると、説教たらしく、鼻につくドラマになってしまうと思うんです。ストレートに状況を変えたいと思うなら、私が政治家になった方が早いと思います。ただ、視聴者が見てよかったと思ってくだされば、意識の変化は必ずあるでしょう。
 ピーター・シェーファー(英国の劇作家)が、「人間は感動することによってのみ変化する」と言っています。教室で習うことやニュースで知ることと違って、ドラマには力があるということですね。
 これ、私の座右の銘なんです。

Qテレビ番組は気楽に見られるものが多い中、このドラマは考えさせられます。

Aリモコンの登場で、テレビは指先で操作できるものになりました。嫌になったらいつでもチャンネルを替えられる。それからテレビは視聴者から目でいたぶられるものになってゆきました。それはそれでいいのですが、どこから見てもわかるもの、見飛ばしてもわかるものへの需要が大きくなったことは、ドラマの作り手としては残念です。
 頭を使わず、気楽に見られるドラマもあってもいいですが、一方で、視聴者の人生を揺るがすようなドラマもないと、バランスが悪いと思いますね。
 「台本」とは土台の本、「脚本」とは脚の本と書きます。私が書いた台本を演出家が演出をし、役者が演じ、音楽家が音楽をつけ、様々な人の手を経て、視聴者に届きます。ですからドラマは私だけのものではありません。みんなで創ったものなんです。
 私はいつも、1時間のドラマの中に一つか二つ、私にしか書けない台詞があればいいと思っています。それがないと、だれが書いても同じですから。今回のドラマで具体例をあげると、榎原医師(中村橋之助)の「誕生することと死ぬことは似たようなもんだ」という台詞があります。そこに私の哲学が出ていると思うのですよ。
 そういう台詞は人の心に残り、その瞬間はわからなくても、いつかふと思い出してくれたら脚本家冥利につきると思います。

Qその言葉をどうやって創り出すのですか?

A台詞は苦労しなくても出て来ます。書いちゃってから、「これ、いいかも」、と思うことが多いですね。
 人の話でいいなと思ったら、すぐメモします。電車の中でもどこでも。そういう引き出しが無限にあれば、私の人生とあいまって、ある時、ポロッと出て来るんです。

Qご自身の産婦人科での体験は?

A子供を産んだことはないですが、子宮筋腫で手術したときに産婦人科に入院しました。その日の朝、ちょうど月の満ち欠けと潮の満ち引きの関係で、朝方、大勢の赤ちゃんが生まれたんです。ほんの何時間前かに生まれたばかりの赤ちゃんが新生児室にずらっと並んでいるのを見て、しみじみ思いました。お肌はつるつるで、無垢で本当にかわいい。だけど、この子たちは今日から死に向かって生きるんだなあって……。
 その時感じたことは、今回のドラマの中でも生きています。
 このときの女医さんが、中絶しようかどうしようか迷っている患者さんに、「迷うくらいなら産みなさい。堕ろすなら今すぐ決心しなさい」って言っているのを聞いて、すぐメモしました。この台詞は別のドラマで使いました。子宮を摘出するかどうか女医さんと相談している時も、その女医さんが、「とっちゃいなさいよ、歯を抜くようなもんだから」と言われて、これも別のドラマで使いました。実際は、お腹を切るのは、歯を抜くよりだいぶ大変でしたけど。こういうメモはいつもたくさん持っています。

Q「ギネ」は手術シーンもとてもリアルです。

A岡井先生から若い先生まで、先生方が大勢で指導してくださっています。1話の手術シーンのリハーサルは、収録の前日10時間もかけて行われました。役者たちは、リハーサルが本番より疲れたと言ってましたね。このドラマは、すごく丁寧に凝って作っているんです。未熟児は人形なんですが、リアルでしょう? 500グラムの未熟児なんて撮影できませんから。昔なら1500グラムなければ育たなかったのが、今は500グラムでも育つんです。今回のセットはアメリカのERくらい凄いんですよ。医事監修の先生が、ここでお産も手術も出来るっておっしゃってますから。

Q迫真のドラマにはそんな背景があるのですね。

A先生方は本来のお仕事が激務なのに、スタジオによく来て指導してくださる。本当にタフだなあ、と思います。「きのうも寝てない」とか、「これから病院に戻る」とかいいながら、立ちっぱなしで指導してくださいます。産科医はどこでも寝られなきゃだめなんだそうですよ。イチ、ニのグーって寝られないともたないって。

Qこのドラマを通じて、産科医療が少しでもよくなるようにと期待したいです。

A繰り返しになりますが、社会的意義のあるドラマではありますが、啓蒙のためにやっているわけではありません。様々な矛盾を抱えて生きる人々のささやかな応援歌になることが、私の願いです。でも、最後まで見ていただければ、産婦人科医の仕事は素晴らしい、と思っていただけると思いますし、産婦人科医をめざす人が増えるといいなとも思っています。(おわり)