近未来小説

某巨大掲示板・僻地スレ67より。

948 卵の名無しさん sage 2007/06/17(日) 08:30:04 TNW6er2w0
○日新聞 
2015年6月17日朝刊  特集 医療再生〜光を取り戻せ

 2014年秋 夜になってK子(25)さんは吐き気と体調不良を自覚した。
 しかし、近所の救急病院では8時間以上待たされたあげくに、
無愛想な診療看護師(プラクティショナルナース)の診察しか受けられない。
 そこで近所の薬局に行って、薬剤師に相談をして処方を受けた。
 だが、2日ほどたっても症状は酷くなるばかりで、仕方なく救急病院に行った。
 吐き続けながら、9時間待って、無愛想な顔をした診療看護師が出てきた。
「医師の診察を受けたいのですが?」
 かつて小児科に気管支炎で通ったことのあるK子さんにしてみれば
診療看護師より医師の診察を受けたかったのだが、診療看護師の言葉は
冷たかった。
「じゃあ、明日の朝9時まで待ってください」
「今、吐き気が酷いんです」
「吐き気止めを処方します。明日朝9時に総合外来に行ってください」
 診察も含め、たった3分だった。
「点滴をお願いします」
ガイドラインからみれば今のあなたには必要ありません。明日、医師の診察時に言ってください」
 それだけで追い立てられるように診察室を追い出された。
 そして吐き気で一睡も出来ずに、K子さんは翌朝、総合外来へ行った。


950 卵の名無しさん sage 2007/06/17(日) 08:37:01 TNW6er2w0
 白髪の60を超しているような医師が出てきて、尿検査と妊娠検査が行われた。
 はたせるかな、妊娠検査が陽性に出た。
「その薬局の薬は良くありませんね。ただちに飲むのを止めてください」
「もう2日も飲んでしまったんですか、大丈夫でしょうか?」
「なんともいえませんね。私は産婦人科じゃないもので」
「先生は総合科なんでしょう? どうしてわからないんですか?」
「私はもともと脳外科なんですよ。総合科なんて若い医師は誰もやりたがらないんですよ。
 仕方なく定年退職した私が、やる羽目になりましたね。これでも退職する前は副院長だったもので、断り切れなくて。
 というわけで、脳外科領域以外は苦手なんですよ。まあ、紹介状書いておきましょう」
「この病院には産婦人科は無いのですか?」
「私の退職と共に、産婦人科の先生方も二人退職されましてね、もともと4人で800人の妊婦さんを扱ってたので、
もうお産の取り扱いが出来なくなってしまったんですよ。今じゃ部長が手術後の婦人科の患者さんをみているだけです。
お産は出来ませんね」
 その言葉を聞いてK子さんはショックを受けた。
 薬剤師の言葉のままに薬を飲み続けたことと、産婦人科が無くなってしまっていたことがK子さんの心に大きく不安を
投げかけた。
 10年以上前、K子さんが小児科に掛かっていたときは、こうではなかった。
 救急病院に行けばいつでも医師が診察してくれて、点滴も頼めばしてくれた。
 産婦人科も同じ病院にあった。
 診察を終了したとき、K子さんは懐かしい顔を見つけた。K子さんを診療したことがある、小児科の女医さんだった。
「先生! お久しぶりです!」
 女医のBさんは変わらぬ笑顔を投げかけてくれて、K子さんはほっとした。
 だが、話がK子さんの妊娠に及ぶと、その表情が翳った。


951 卵の名無しさん sage 2007/06/17(日) 08:54:23 TNW6er2w0
「お金掛かるわよ? それに色々と難しいわね」
「え?」
 Bさんの言葉はこうであった。
 今やお産は、分娩料で最低150万かかる私立の産婦人科か、30万円の助産院しかない。
 助産院を選択して、危険な状態になった場合は、200km離れた県立成育医療センターに運ばれるか、
 最悪は、ヘリで東京まで運ばれることもあると。
 しかしそうなった場合は赤ちゃんが死んだり、重大な後遺症が残ることも多いと。
「小児科としては、借金しても私立病院にしておきなさいって言いたいけどねぇ。
 妊婦検診から産む予定の私立病院でしていかないと、私立病院は決して分娩をさせてくれないからねぇ」
 私立病院は妊婦検診も、1回3万円はする。
 Bさんと別れたK子さんは、吐き気と悩みでふらふらしながら帰宅した。

 医療が格差の場となって久しい。
 かつて、この国の医療は国民全てに開かれた場であったが、医師不足に乗じて利に走った人達によって、
国民の間に貧富の差という大きな壁を作る場となった。
 無垢な赤子ですら、生まれたときから恵まれた民間病院と、すし詰めの助産院という格差を背負っている。

 この特集、医療再生では、5回にわたって本紙記者達が格差を生み出す装置となった医療現場を徹底的に
取材していく予定です。
 次回は、救急医療での格差に取り組みます。 
                                文責 青○○美

2015年、って10年以内の未来なんだが、今の医療崩壊速度を考えると、あながち空想とも思えないのが怖いな。その時に、自分が格差社会のどっち側にいるのか、想像もつかん。ひょっとしたら刑務所の中かも知れないし。