アナログがデジタルになった時、医療は崩壊する。

昨日取り上げたような話題で、医療の分野では人と人とのつながりというアナログなものが大事と書いた。そんな話はいくらでもあって、同じ検査データでも、ある人には全然大丈夫だし、ある人にとっては危険だったりする。こういう判断、デジタルにできないでもないけど、考える要素が多すぎるので最終的にはアナログな感じになる。
搬送先が見つからないので、ネットワーク化と称して、大量のパソコンを導入して、一斉に全病院に問い合わせてベッドの空き状況を判断するシステムを導入しようとしている自治体もあるようだが、これが正直に運用されるようになったら、医療は崩壊するだろうな。まず、救急車は、軽症でも呼ばれることが多い。で、もしベッドの空き状況が正直に申告されたら、救急隊は空いてるところに入れるだろ? このシステム、軽症者でベッドが占拠される可能性が限りなく高いんだな。だから、現時点でそういうシステムが導入されてる地域でも、病院側は、常に受け入れ不可と表示したり、あっても常に1床と表示したりしてフィルターかけてるわけだな。で、直接の問い合わせとか、病病搬送とか、より多くの情報が得られて重症者を選別することができる状況で初めて、ベッドを使うことにするわけだ。こういう判断はかなりアナログだと思うぞ。ベッドの割り振り、搬送病院の選択は、専門的知識を持つ人がやらないと、うまくいかないことは明らかだ。コンピューター画面上のマルバツで判断できる問題じゃない。で、例えば産科救急では色んなところで電話番のスタッフを置こうという話になってるのだが、ほとんどが事務職員だろう。産科OBとかがコーディネーターをやらないと機能しない、と言われているわけだが、産科OBなんて人材は今の日本には殆どいないわけだ。ぼろぼろになるまで働いて、OBになる前に過労死するか、完全に燃え尽きて離職するからそういう仕事には関わりたくないとか、そういうわけで。
仮に産科OBがやるとしても、こういう仕事、例えばある県を全部カバーするとして、全病院の規模と設備と医師の顔まで浮かぶくらいに県内を熟知した上で、全県の医師の信頼を集めている人がコーディネーターにならないと、現場は反発するばかりで機能しないだろうし。私も今や産科OBみたいなもんだから、コーディネートするだけなら私は大好きな仕事だし知識を生かして働きたいと思わんでもないけど、私のような若造の指示に従うのは現場の先生たちは絶対イヤだと思う。なんでアイツの言うこと聞かないかんねん、と思うだろうし。コーディネーター制度もなかなか難しそうで。
まあとにかく、IT化してうまくいくことといかないことがあるということを、早く気づいて欲しいもんですが。ITは使いようですけどね。例えば、日本国内全妊婦のデータを統一してデータベース化、かかりつけ病院の登録を行って全国規模で病状把握、みたいな規模でやれば、もしかしたらうまくいくかも知れない。妊娠登録をしないと、給付金ももらえないとかにしてね。けど、国民総背番号だとか妊婦検診のベルトコンベヤ化とか、個人情報がどうとかとか、こだわりのお産がどうとか言って嫌がられたりするでしょ。だからそういうシステムも組みにくいんだよね。なかなかうまくはいかないもんですなぁ。