時計

医師になりたてのころは、毎日のように手術室に入る生活をしていた。手術室で着替えるたびになくすんじゃないかと心配したりするのもしんどいので、その頃から腕時計を持っていない。外来してても、病棟でも、手術室でも、どこにでも時計はあるもんだから必要なかったのだ。そういう生活を辞めても、携帯電話の時計があれば時間はだいたい確認できるから、やっぱり必要なかった。
一番こまるのが飛行機の中で、国内線で1時間の旅、くらいだったらどうでもいいんだが、国際線で10時間の旅、では今どのあたりにいるのかが見当がつかない。携帯電話をオンにも出来ないし。パソコンをたちあげて時間を見ることは出来るが、いちいち面倒である。
そんなわけで、機内販売の免税品とかで適当なのがあったら買ってしまおう、くらいの勢いでいつもなら見向きもしない免税品のパンフレットを一生懸命眺めてみた。しかしだな、売ってる時計、ぶるがりとか何とかの有名メーカーで15万とか20万とかそんなのばっかなんですけど。そんな中、15000円くらいの手ごろなやつがあったと思ったら女性向けだったり。実は、この女性向けの時計、ちょっとデザインが女性向けか自信がなくて、CAさんを呼び止めて聞いてみたんだよ。
「これ、女性ものですか?」
ってね。そしたら、私が妻か誰かにおみやげを買うんだと思ったらしく、CAさんも嬉しそうに
「ハイ!」
って言うから、私が、
「いや、私が欲しかったので、女性ものなら残念でした。」
とか言うと、CAさん、現物を持ってきて、
「最近は女性が男性ものを身に付けられたり男性が女性ものを身に付けたりいろいろですよね」
と必死。現物をみると文字盤もちょいと小さめだし何より何だか装飾が付いちゃってるから、ちょっとムリかな、と。その他、男性向けのいい感じの時計は4万円とかするし、そこまでして時計は必要ないしなぁ、だったらCD-BOXセットとか買った方がいいしなぁ、などと考えて機内販売は終了したのでした。